仕事や恋愛、人生に疲れたとき、少しだけ気分転換ができる本がほしい…。ちょっとしたスキマ時間に気軽に読める短編小説を紹介します。 女性作家の短編小説なので、恋愛小説ものやヒューマンドラマ、ファンタジーなど、心あたたまるお話が多めです。
- ほっこり優しく安心感のある短編…有川浩『阪急電車』
- 能力を秘めた魅力的な一族を描く…恩田陸 『光の帝国 常野物語』
- 軽犯罪を犯してしまう、完璧ではない人たちの人生…山本文緒 『ブラック・ティー』
- 二十代では分からない、大人の女性の生き方…森 絵都 『風に舞いあがるビニールシート』
- ちょっとクセのある恋愛小説集…三浦しをん 『きみはポラリス』
- 凹んだ時に静かに前向きになれる本…よしもとばなな 『デットエンドの思い出』
- 入りやすい設定でドラマのような感動を味わえる…辻村深月『ツナグ』
- 主婦の軽いタッチの「不倫」を読んでみる…椰月 美智子『フリン』
- 今、勢いがある女性作家の王道短編集…柚木 麻子『ランチのアッコちゃん』
ほっこり優しく安心感のある短編…有川浩『阪急電車』
片道15分の阪急電車を舞台に、さまざまな人の人生の断片が描かれる。
有川浩らしい軽めの文体で、さくっと読めるのが特徴。恋のはじまりのときめきや、別れの兆し、胸がすくような場面、心が温まるシーン等、どの話も読んでいて安心感がある。
万人ウケする、読後感のよい小説。
能力を秘めた魅力的な一族を描く…恩田陸 『光の帝国 常野物語』
タイトルはとっつきにくいが、日常シーンが多くて入りやすいファンタジー小説集。
膨大な書物を暗記する力や、近い将来を見通す力など、不思議な能力を持つ「常野」の一族の短編集。
恩田陸の小説はオチがなくどこか宙ぶらりんの読後感が特徴だが、この『光の帝国』も、一編一編がすべて物語の序章といった『未完結さ』を感じさせる。しかし、常野の一族のそれぞれのキャラクターは非常に魅力的で奥行きがあり、また、中に収められた同タイトルの短編「光の帝国」は感涙必至。この一つの短編だけでも十分読む価値がある。
ただ、がっつりとしたエンターテイメントを求める人には物足りなく感じるかも。
軽犯罪を犯してしまう、完璧ではない人たちの人生…山本文緒 『ブラック・ティー』
「誰だって純真でもなく、賢くもなく、善良でもないが、ただ懸命に生きるだけ」。
立ちション、元不倫相手への復讐、借りパクなど、普通の人々がささいな軽犯罪に至る人間模様を描く。少し疲れているときに読むと心にしみわたる一冊。
山本文緒の作品は、ややビターな味わいのものが多いが、読後感は重くなくさらりとした語り口なので、男性にもおすすめ。また、売れているエンターテインメント小説にありがちなご都合主義のハッピーエンドではないので、現実主義の人も安心して読める。
二十代では分からない、大人の女性の生き方…森 絵都 『風に舞いあがるビニールシート』
第135回(平成18年度上半期) の直木賞受賞作だが、決して万人向けとは言いにくい。
ストーリーは特に盛り上がるわけでもなく、起承転結には乏しい。ただ大人の女性の心情が丁寧に描かれ、お金以外のもののために働くということ、結婚や恋愛でのどっちつかずの感情、地道な生き方への信念など、はっとするような細部やキャラクターが魅力的。
二十代の若い子向けではなく、三十代、四十代以降の経験値を積んだ女性にこそ、じんわり響く作品。
ちょっとクセのある恋愛小説集…三浦しをん 『きみはポラリス』
表向きは「最強の恋愛小説集」とうたわれてはいるものの、11の短編からなるそれぞれの恋愛は、ちょっと独特でクセ有り。好き嫌いははっきり分かれそうな小説で、ステレオタイプの甘酸っぱい恋愛小説を求める人には不向き。
BL(ボーイズラブ)っぽいものあり、動物目線ありなど、色んな恋愛の形を作者ならではの視点と文章で味わえる。三浦しをんワールドが好きな人にはおすすめ。文章も美しく、ほのぼのと余韻も味わえる一冊だ。
凹んだ時に静かに前向きになれる本…よしもとばなな 『デットエンドの思い出』
「これまで書いた自分の作品の中で、いちばん好きです」と著者のよしもとばなな本人が語る短編集。
「キッチン」で有名なよしもとばななといえば、日常の中に超常現象が出てくる小説が多いが、そのテイストが苦手な人でも読みやすい一冊。婚約者に裏切られた主人公など、つらい中でもふとした時に訪れる幸せの瞬間を描く。淡々とした悲しみの中に希望が見える、読後感のよい前向きになれる小説。
入りやすい設定でドラマのような感動を味わえる…辻村深月『ツナグ』
一生に一度だけ、死者との再会を叶えてくれるという「使者」をめぐる話。
もし身内や親しい人が亡くなっているなら「自分なら誰に会いたいだろうか」と設定にすんなり入り込めるのもポイントが高い。伏線もあって適度にミステリー要素もあり、生と死がもたらす感動もあり、難解さもなくテンポよし、心もあたたまる、とまるで模範解答のような小説。
万人ウケはするが、逆に言うとクセがなく、あまり深い考察や手ごたえは得られない。
主婦の軽いタッチの「不倫」を読んでみる…椰月 美智子『フリン』
不倫をテーマにした連作短編集「フリン」だが、全然どろどろしていなくて、さらりと読める。
タイトルから男女の愛憎劇を期待してしまった人には「え、これだけ?」と肩透かしだが、個人的には、あっさりした中にちょっと毒が利いていて好きな短編集。
特に短編「シニガミ」は、自業自得な主婦の不倫話だが、惰性のように不倫をしている主婦の心情がものすごくリアルに描かれていて、徹底的に甘さや夢がなく、とても面白い。著者の椰月美智子は、児童文学での賞をたくさん獲っているだけあって、文章が爽やかで読みやすいののもポイント。
今、勢いがある女性作家の王道短編集…柚木 麻子『ランチのアッコちゃん』
なんとなく手に取りやすい、読みやすそう、という、見た目の印象がかなりポイントの高い本が「ランチのアッコちゃん」。
設定は、地味な派遣社員の女の子が、通称“アッコさん”と呼ばれる女性上司から「一週間、ランチを取り替えっこしましょう」と提案されたことから始まる。
物語の入り方は面白いけど、予想通りのあっさりと爽やかでハッピーな女子小説。(決して悪口ではない)。疲れたときに必ず元気になれるし、「よし、私も頑張るか」とナチュラルに前向きになれる小説。プレゼントにもおすすめです。
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